相続放棄前に空き家を解体してもよい?解体工事の順番と注意点

親が遺した空き家。老朽化が進んでいたり、近隣からクレームが来ていたりすると「早めに取り壊してしまいたい」と感じる方は多いでしょう。

ただ、相続放棄を考えているなら、解体工事を行うタイミングには十分な注意が必要です。

相続放棄の前に空き家を解体してしまうと、放棄できなくなるリスクがあります。

ここでは、相続放棄と解体工事の「順番」にまつわる注意点を、初めて相続に向き合う方に向けてわかりやすく整理します。

相続放棄の前に解体すると「法定単純承認」が成立するリスクがある

民法921条の「処分行為」に注意する

相続放棄とは、亡くなった方のプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も含め、一切を引き継がない手続きです。

家庭裁判所への申述が必要で、一般に「相続の開始を知った時から3か月以内」という期限があります。手続きの可否や期限は個別事情で変わることがあるため、早めの確認が必要です。

この放棄に影響する可能性があるルールが、民法921条の「法定単純承認」です。

相続財産を「処分」したと判断されると、相続を承認したものとみなされる可能性があります。

空き家の解体工事は、財産の形を大きく変えるため、処分行為に当たるかどうかを慎重に確認したい行為です。

つまり、相続放棄前に空き家を取り壊してしまうと、借金や負債の扱いにも影響するおそれがあるのです。

相続放棄は一度手続きが進むと、やり直しが難しい場合があります。「先に片付けておこう」と考えて動く前に、法律専門家へ確認しましょう。

解体・売却・修繕、相続放棄前に注意したい行為の線引き

解体工事だけでなく、空き家の売却や大規模な修繕工事も処分行為とみなされる可能性があります。

一方で、壊れた窓ガラスの応急処置や草刈りといった軽微な対応は、管理行為として扱われる場合があります。

ただし、この線引きは個別の事情によって判断が変わります。

区分具体例相続放棄への影響
処分行為(要注意)解体・売却・名義変更・大規模修繕法定単純承認になるリスクあり
管理行為(要確認)応急処置・清掃・草刈りなど影響が小さい場合もあるが、個別確認が必要

「これは管理行為の範囲内だろう」と自己判断だけで進めるのは避けたいところです。

迷ったら、解体や修繕に着手する前に、弁護士や司法書士に相談してください。

相続放棄後の空き家解体は、誰が行うことになるのか

放棄した後は所有者として扱われない

相続放棄が完了すると、その人は原則として空き家の所有者ではなくなります。

解体を発注できる立場かどうかも、慎重な確認が必要です。

相続放棄後に勝手に取り壊してしまうと、他の権利者の財産を処分したとみなされるおそれがあります。

他に相続人がいる場合は、その方が所有者として解体の可否を判断します。

全員が相続放棄した場合は、家庭裁判所への申立てを経て「相続財産清算人」が選任され、その後の管理や処分を担う流れになることがあります。

放棄した後も「保存義務」が残るケースがある

相続放棄をしても、すべての責任が即座に消えるわけではありません。

相続放棄をした時点で「現に占有している」財産については、次の管理者へ引き渡すまでの間、保存義務(適切な状態を維持する義務)が残る場合があります。

放棄した後も鍵を持ちながら出入りしていたり、荷物を置いていたりする場合は「現に占有」に該当する可能性があります。

この状態で管理を怠り、建物が倒壊して近隣に損害が生じた場合、損害賠償などのトラブルにつながるおそれがあります。

相続放棄後はできるだけ早く、次の管理者への引き渡しを進めることが大切です。

弁護士・司法書士に相談すべきタイミングは「動く前」

相続放棄を考えているなら、解体工事に着手するよりも前が相談のタイミングです。

工事を発注した後では、法定単純承認の問題が生じている可能性があり、判断が難しくなります。

期間内に結論を出すのが難しい場合は、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられる場合があります。

また、相続放棄を選ぶべきか、相続したうえで解体や売却、国への帰属申請などを選ぶべきかの判断自体も、専門家と一緒に進めるのが安心です。空き家の状態・借金の有無・家族の状況によって、向いている対応は異なります。

まとめ:相続放棄と解体の順番は法定単純承認に注意

  • 相続放棄前の解体は、法定単純承認(民法921条)と判断される可能性がある
  • 相続放棄後は所有者ではなくなるため、勝手に解体を進めない
  • 放棄後も「現に占有」していれば、保存義務などの責任が残る場合がある
  • 解体・修繕・売却に動く前に、弁護士・司法書士へ相談する

相続放棄と解体工事の「順番」は、一見シンプルに見えて、法律上は複雑な判断を伴います。思わぬ形で放棄できなくなったり、管理責任が残ったりしないよう、専門家のアドバイスを受けながら進めることをおすすめします。